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思い出一題 
 ( 排球部 )

F組・千 葉 昇 
  

    
     「練習始まるぞ!○○先輩を呼んでこい!」
     放課後が近づいた頃、3年のキャプテンからの伝令でした。 
     「○○先輩、どこに居るんですか?」おもわず聞き返した。 「歌舞伎町の雀荘かなあ・・・?」 
      そういえば、朝、新宿駅を出たところで見かけたような気がすることを思い出した。しかし、記
    憶を辿ると学校とは反対側、新宿の街の中へと消えたような・・・・。この一声で、中学を出たば
    かりの純粋な高校1年生2人は、胸の汚れたジャージ姿で歌舞伎町の雀荘めぐりに旅立つことにな
    ります。 
      生き馬の目を抜くと言われた新宿歌舞伎町を、右も左もわからない青少年2人が訪ね歩く姿は何
    とも奇妙な光景です。行く先々の雀荘では、店長に限らず、くわえタバコのお客からも奇異な視線
    が集中したのは言うまでもありません。 
      看板を見つけては入っていく・・・いったい何軒の店を訪ねたでしょうか。まだ幼さを残す青少
    年には、あまりに驚きの社会体験でした。  
     2年間でこうも大人になれるものか、そして新宿の街に馴染めるものかと、新鮮な気持ちと不安
    な気持ちが交錯したことを鮮やかに思い出します。 
      やっと探し当てた頃は、とうに練習は始まっていた時刻です。「もう半荘であがるといっておけ!」 
    苦労には冷たい先輩の言葉を携えて練習へと走って戻りました。 
      2年後、昼食に、午後の娯楽(パチンコ等々)に、そしてコーヒーブレイクに・・・と歌舞伎町
    をおおいに活用するようになると「歴史は繰り返す」ことをしみじみ実感しました。その頃には、
    純粋な高校生も、スライディングの胸の汚れから新宿の色にと綺麗?に全身染まっていったことが
    よみがえってきます。 
     あれから30年・・・ 
      我が子が、今高校生になって白球(今のボールはカラー?)を追いかけているのを知って、バレ
    ーボール以外にいったい何を学んでいるのか、街で声をかけてみたくなる気がしてきます。 
      白球を追った思い出に触れずに筆を置くご無礼、お許しを・・・