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私説−六中健児の歌考

久保田 兼士

      六中健児の歌は旧制六中時代に作られ以後何十年にもわたり歌い継がれていますが、改めて
    オリジナルの譜面を見ると私たちが歌っているものの歌詞やメロディーがオリジナルとは若干
    異なっていることに気が付きます。
      普段歌っている六中健児の歌を採譜しオリジナルとの違いを検証することにしました。なお、
    採譜にあたり、新二十一回黒川先輩(旧姓志田先輩)と新二十五回岸上さんにご助力頂きまし
    た。
    
    一、歌詞
    
      現在歌われているのは、オリジナルの一番と四番で、二・三番は歌われていません。また、
    歌詞の一部も次のように変えられています。
    
    「祖国の光 世にあらはせ」	→	「母校の光 世にあらはせ」	(一番)
    「皇基を四方に 輝かせよ」	→	「校旗を四方に 輝かせよ」	(四番)
    
      オリジナルの歌詞の中には天皇を崇拝するような言葉が多く、戦後に軍国主義を助長すると
    して故豊沢先生が書き換えられたものです。四番の「皇基」を「校旗」(「校基」かも知れませ
    んが、一次資料が無いためここでは「校旗」としています)と同じ発音の言葉に置き換えてい
    るのには感心させられます。
      同様に二番・三番も書きかえることが出来たのかもしれませんが、二番の「新たなる御代を
    護る」や三番の「伏し仰ぐ大帝」などを書きかえるとオリジナルを大幅に損なうことになりか
    ねず、やむなく削除したものと考えられます。
    
    二、リズム
    
      ふだん歌われているものは、付点音符のリズムが甘くなっており、譜面を作る際に参考譜1
    のように付点音符を三連符として、御意見をお伺いしました。

参考譜1、1〜4小節。上段はオリジナル 私の耳が覚えている限りでは三連符ではないです。 これはかなりオペラチックで音楽的です。 水泳部はきわめて体育会的に歌っているので付点音符だと思います。 リズムについては、少し間のびしている人がいて三連符のように聞こえるのでは? と思いますが・・ (新21回 黒川先輩) う〜ん、これは...。 まず、三連を多用する曲ってないと思うんです。それなら三拍子か八分の六拍子にし てしまうから。三連って四拍子などの時にチョコッとだけ使うからその特異性が生き てくるものだと思いますよ。 ただ、この曲は割に速く歌いますから、そうすると四分音符を三分割した長さと四分 割した長さが僅差になるので、三連で歌っているように感じるのではないか、と思い ます。 (岸上@25D) 前記のお二方から以上の様な御意見を頂きました。たしかに、三連符を多用するなら八分の 六拍子の方がよさそうです。付点音符って正確に歌うのは案外難しく、意識していないとのリ ズムが甘くなり三連符に近くなります。というわけで付点で歌っていることとしました。 オリジナルは付点音符を多用しており、全体に行進曲風に作られていますが、現在歌われて いるものは参考譜2のように特に後半の付点音符を四分音符としています。このため、より音 楽的に仕上がっていますがオリジナルの持つ勇壮な雰囲気は若干薄れています。 一番の歌詞を「祖国」から「母校」に替えたため、付点では歌い辛くなり、リズムが替わって きたとも考えられますが、定かでは有りません。
参考譜2、17〜20小節。上段はオリジナル その前と後とに変化をつけてサビを活かすという意味でリズムを変えたんだと思います。歌 いやすさから言ったらリズムを変えないで全部同じ調子でやった方がいい、ほら、リズムが変 わると着いて行けない人っているじゃないですか。 (岸上@25D) 三、メロディー  リズムだけでなく、音程も所々変わっています。曲の頭から変わっているところを列挙する と次のようになります。 オリジナルの三小節と十一小節の四拍目は「シ」ですが、ふだん我々は「ラ」と歌っていま す(参考符1を参照してください)。「ソシシ」より「ソラシ」の方が歌いやすく、いつのまにか このように歌われるようになったものと思います。 オリジナルの二十小節は「ラーレー」となっていますが、「ラーファー」と歌っています(参 考符2を参照してください)。オリジナルの「ラーレー」はかなり抵抗があり、譜面の誤記にも 思えますが、作曲者ご自身による一次資料は観たことが無く定かでは有りません。現存する譜面 はこのようになっていますし、昔の録音を聞いても確かに「ラーレー」と歌っています。 二十二〜二十三小節もかなり異なっています。二十二小節は「ミミファ♯」が「ミファ♯ソ」 に、二十三小節の四拍目は「ソ」が「シ」になっています。(参考符3を参照してください)
参考譜3、21〜24小節。上段はオリジナル 二十小節目のラレがラファになったり二十三小節目のソファミソがソファミシに なったのも(久保田君の譜面通り)同感。ラレはちょっと違和感あり過ぎ、 二十三小節のソファミシはサビの盛り上げってことでこうなったと思います。 (岸上@25D) 二十七小節の「レードド」は、私は「レードレ」と歌っていますが、
参考譜4、27、28小節。上段はオリジナル。私は下段で歌っている。 最後の「興国の鐘は響けり」の「ひび」を久保田君はドレにしているけれど、私はドドで 歌っていました。水泳部独特だったのかも?  (岸上@25D) 27小節はレードドと歌ってます。 (新25回 黒川先輩) といわれ、二対一で私の負けです。それでも私は「レードレ」と歌っています。 六中健児の歌は水泳部のOBが塩見の臨海教室で教えていますが、譜面やピアノがあるわけで はなく口頭で伝えてきたため、リズムやメロディーが徐々に変わってきたものと思っています。 その是非を問うためではなく、今あるかたちを記録し、今後も変化することがあれば将来その 足跡をたどるための一助にと筆をとりました。御協力下さった方々に改めて御礼申し上げます。 最後に、オリジナル版と口頭伝承版の譜面を添付しておきます。見比べてください。 六中健児の歌−オリジナル版 六中健児の歌−口頭伝承版