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数学科・大西 安先生

        30年以上も前のことは、大方忘れてしまっているが、深く記憶に残っていることの一つ
      を述べて、「渡辺康隆君のCD作成」への義理を果たしたい。
        諸君は、確か新宿高校学園紛争の余震が続いていた年に入学されたのだと思う。生徒たち
      の、政治や社会問題への関心が高まり、受験教育体制に対する批判や教育改革の声が学内に
      充ち、安保反対デモ、授業ボイコットが呼びかけられた。職員会議がたびたび開かれた。
        生徒個人個人がもっている信條を曲げさせることはできなかったし、私見を押しつけるこ
      ともできなかった。話をよく聞いて生徒を理解し、矛盾があれば指摘すること位しかできず、
      生徒と共に歩き悩んだ。非力であった。改革の声を紳士に受け止め、授業の改革、生徒の主
      体性の回復を念頭に、あれこれと思考錯誤をくりかえす気の重い日の連続であった。しかし、
      これとは裏腹に、大部分の生徒は受験体制につかり―――さしずめ、そうするしかなかった
      ―――残りは、体制反対を叫び、またある者は無気力化していった。今、当時を振り返えり、
      あの紛争は諸君にどんな影響を与えたのだろうか。世の中に出て、あの体験が役立っただろ
      うか。いや、これから役立つのだろうか?
        教育界は、今や紛争以前の状態にもどろうとするきざしが、チラチラ見えかくれする昨今
      である。歴史は繰り返えされるのか?